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中学三年生という受験を控えた時期だというのに長男は勉強を全くしなくなっていき、成績は急降下していった。
本人はさして気にして無いようであったが私はヤキモキする日が続いていた。
塾の先生からは地頭は良いのに勿体ないと本人に言ってくれていたようだが、そんな大人の声は全く無視して相変わらずA君に執着し続けていった。
最初は父親から話しをして欲しいと願っていたA君のご両親だったが、あの人のあまりの出て来なさに呆れたのか、いつのまにかそれも言わなくなっていた。
変わりに私への電話での報告は長男がA君に接触する度にかかったきていた。
そんなある日、A君の家のマンションの小学生を長男が脅してオートロックを開けて中に入った事があり苦情が入ったとA君のお母さんから電話があった。
他にもどこからか侵入した長男がA君の兄弟に接触し、A君に会わせてと付き纏い困っている事や他にも色々迷惑している事など告げられた。
「お父さんから厳しく叱って欲しい」と頼まれたが、私からあの人には全て話した上で話しをしてくれと何度も言っている。でも叱るどころか、笑いながら部屋から出てくる2人の姿しか見られなかった為私も途方にくれていた。
困った私はあの人がいる時間に直接家の電話にかけて欲しいと伝えた。
A君のお母さんから直接話しをしてもらえば少しは危機感を感じてくれるのかもしれない、そう思ったのだ。
あの人が帰宅し食事をとっている時に、私はA君のお母さんに帰宅している事を伝えた。
すぐにA君のお母さんから電話がかかり、あの人へ繋いだ。
あの人は私をチラッと見ながら渋々電話に出た。
「はい。〇〇の父です。」
「はい、はい。…」
面倒くさそうに相槌をうつ。
「それは、ウチの子だけが悪いって言ってるんですかね。」
「本当にお宅の子は何も悪くないと」
「注意はしますよ。そうして欲しいならね。」
機嫌が悪そうにそう言って電話を切った。
切るなり私を見て信じられない事を言ってきた。
「お前が仕組んだのか」
?意味が分からずポカンとしている私にあの人は続けた。
「お前が(A君のお母さんと話す機会を)この電話を仕組んだのかって聞いてるんだよ」
頭の中が真っ白になった。
この人には父親として他人に迷惑をかけている我が子をどうにかしようとする気持ちは無いのか。
この人は今、明らかに私に怒っている。
それはA君の親御さんと話したくなかったという事だ。
一瞬でそこまで悟り、頭に血がのぼった。
この人は親としての責任をどう捉えているのだろうか。
そもそもあの電話は何?
もうA君への付き纏いが始まって何ヶ月も経った。
A君のお母さん達がいかに迷惑しているか、全部伝えているのに、何も理解してないの?
この人とは理解し合えない。
心の底から感じた。
マグマのようなドロドロしたものが、私の心の奥底から湧き上がり全身を包んだのを感じた。